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1995年10月号(16号)
妊娠中毒症の予防について
北海道立滝川畜産試験場衛生科長 米道 裕彌


 1.妊娠中重症
 妊娠中毒症は双子病とも言われ、胎子の成長に多量のブドウ糖が必要とされる分娩6週前頃から発生する。この病気は代謝障害によって起こり、似た症状は牛及び山羊にも見られる。主として、低血糖と高ケトン尿症によって特徴づけられ、臨床的には、神経症状と元気喪失が見られる。わが国では、最近までケトージス(ケトン症)として紹介されてきたが、双子生産率を高めるための栄養及び妊娠末期の飼養管理が改善されてからは発生は激減した。障害は肝臓における糖代謝要求量に対し不十分な場合に起こる。すなわち、飼料の吸収量が不適切な場合とか、成長を続ける胎子のエネルギー要求を母体からの糖生成の前駆物質の利用で補うことができないとき

、あるいは体脂肪からの大幅な脂肪酸の動員が行なわれるときに起きる。
 この状態は、単子のときにも見られるが、多胎のときに感受性が極めて高い。しばしば致死的で、不適切な栄養供給が採用されたときとか、自発性の食物摂取が減ったときなどに多発する。妊娠羊の栄養摂取量に最も大きく寄与するのは、自由摂取量である。過肥の羊において、、腹腔内脂肪と増大する子宮により消化器容積は小さくなり、自由摂取量は減少する。新しい環境への羊の移動、穀類の採用など飼料の変化、併発している四肢の膿瘍、腐蹄、そして内寄生虫感染などにより、自由摂取量の減少をもたらす。輸送、転牧、毛刈り、断尾など飼養管理に伴う絶食、低カルシウム血症等は多発の要因となる。

 2.疫学と病理発生
 緩慢なあるいは急速な食物摂取の減少は妊娠中毒症を起こす最大の原因となる。2頭の胎子を妊娠している母羊の栄養要求は、胎子が急速に成長する妊娠末期の2カ月間は維持量のほぼ2倍に増加する。不適切なエネルギーと蛋白摂取は重大な前中毒状態となり、コリンやビオチンなどの他の栄養因子の欠乏は、妊娠中毒症の発生に大きく影響する。
 母羊は胎子のブドウ糖の要求に対し従属的で、もっぱら飼料からの摂取によってのみしか対応することができないので、不足の場合には、身体の蓄えから引き出して対応する。
 母羊は胎子や、中枢神経系、目、赤血球そして乳房などに必須のブドウ糖を消化管から得ることができないとき、このブドウ糖を合成しなければならない。ブドウ糖の必要量の半分以上は、摂取された炭水化物の微生物発酵によるルーメン内で産生されたプロピオン酸から通常肝臓や腎臓の皮質で合成されている。残りは、アミノ酸、酢酸、蓄積体脂肪から放出されるグリセリンからの糖生成から得られる。
 妊娠中毒症においては、飼料からのプロピオン酸や体蓄積から引き出された糖生成の前駆物質からだけでは、ブドウ糖の必要量を維持することができない。したがって、低血糖が起こり、このことが中枢神経系の抑制をもたらす。脂肪酸は、ホルモン支配のもとで、蓄積脂肪から急速に動員され、肝臓に入り酸化されるが、TCAサイクルに利用されないと、ケトン体の産生へと代えられる。
 ケトン体の高度の産生により、アシドーシスになり、腎排泄を長引かせ、結果としてナトリウムやカリウムイオンの喪失をもたらし、血清中のアルカリ性維持機能を低減させる。ケト酸症は呼吸困難をもたらし、中枢神経抑制を悪化させ、脱水や尿毒症そして意識喪失など非可逆的な段階に進ませる。肝臓への脂肪酸の侵入はトリグリセライドの蓄積と合成となり、特徴的な脂肪肝の原因となる。

 3.臨床症状
 罹患群では病気の発生は通常数週間以上にわたって毎日数頭の羊が臨床症状を現わして持続的に発生するように見える。この病の経過は長くて7日間位なので、罹患した母羊は末期段階ものが見い出されることが多い。最初の元気消失から臨床症状は発展して、筋障害による異常姿勢の後、筋運動、平衡運動の喪失、運動障害となり、ついには、横臥、昏睡、死にいたる。
 最初に罹患した母羊は群れの移動時に遅れ始める。母羊は失明したように見えるが、まだ聴覚は残っていて、人間や犬が近づくのは分かるが、滅多に逃げなくなる。もし強制的に動かそうとすると、無目的によろよろとした足どりで歩き、障害物に対してはしばしば不器用にもたれ掛かる。瞳孔反射は減少し、眼瞼反射は消失する。体温、心拍、 、呼吸数そして胃運動は大抵の場合、正常である。状態が進むと、もっと沈うつ状態となる。
 神経筋障害は、耳や口唇をぴくぴく動かす頭部の細かいふるえとして観察され始め、あるものは痙攣を示すようになる。後期の段階では、姿勢異常と顎を引き上げる"ミシマオコゼ様の"姿勢をとる。歯ぎしりしたり、歯噛みして顎を鳴らすものもいる。母羊は頭部を横腹につける仰臥あるいは側臥位をとる。
 昏睡状態となり、努力性呼吸の後、3~4日後に死ぬ。
 時に、胎子が死んで、母羊が一時的に回復するが、胎子が流産しないで腐敗したときには、中毒症の再発となる。罹患した母羊は妊娠期を通じてずっと問題を抱える。あるものは胎子の死により回復する。過肥の母羊は急激な絶食期間を与えると、急性の経過をとり、昏睡時期を経ないで死ぬ。これらの母羊は、しばしば低カルシウム血症やケトージスを併発している。

 4.診  断
 妊娠中毒症は神経症状が特徴的で、しばしば低栄養や管理失宜が誘因となっている。母羊は妊娠末期にかかり、3~5日で巣死する。
 本症は後肢を伸張し、足を投げ出す姿勢をとる低カルシウム血症と区別しなければならない。低カルシウム血症は妊娠中毒症より経過が早く(12~24時間)、群中のもっと多くの母羊が罹患する。低カルシウム血症は急な食物の喪失とか過度の運動直後に見られ、カルシウム塩の処置に反応する。

 5.処置(治療)
 治療は妊娠中毒症のはんの初期で起立可能なときにのみ成功する。横臥したり、昏睡となった母羊は、治療にも関わらず通常難死する。高調ブドウ糖液(40%)の静脈内投与は通常は効果的でないし、多数の母羊に頻繁に投与することは実際的でもない。種畜など価値のある動物に集中治療を行なう場合、電解質溶液に混合されたブドウ糖を静脈内へ投与することが望ましい。
  1. 糖新生の前駆物質を与えながら、あるいは体蓄積からの動員を促しながら、増給による飼料からの吸収によってブドウ糖前駆物質の有効性を増加させる。
    1. 補助飼料を用意する。体重50kgで双子妊娠の母羊は、もし牧草がないならばえん麦2kg/1日を与え、穀類を与えている群で補助的に牧草地を使用している場合に妊娠中毒症が発生したとき、補助的な飼料の増給と同時にストッキングレイトを少なくするのが効果的である。
    2. 罹患羊が完全に正常な食欲に戻るまで1日2度経口的に50%グリセリン溶液か 、プロピレングリコールの温湯200mlを与える。

  2. 分娩を誘起させたり、帝王切開によって胎子を取り出すことによって、母羊の代謝流失を減少させる。重度のアシドーシスや腎臓障害が見られない罹患羊に対しては帝王切開は有効な処置である。デキサメサゾン(10mg)投与による分娩誘発は、腐蹄や四肢膿瘍などにより、急に放牧能力が制限されて妊娠中毒症の予備群となった羊群において母羊と子羊の生存率が高い。

 6.予  防
 母羊は妊娠末期は、より注意深く観察される必要がある。妊娠中毒症を示した群においては、他の母羊は乳房や胎子の成長や発育を犠牲にすることによって母羊は影響を受けないかも知れない。しかし、このことは低体重の子羊の出産により沢山の子羊の巣死をもたらし、母羊の乳生産も少なくなって、生き残った子羊も低発育状態になる。
 群中の危険度を知る上で、妊娠診断テストは有効である。妊娠中期の血糖値が得られるならば危険かそうでないかのチェックに手助けとなる。妊娠90日の1昼夜絶食母羊からの血糖サンプルを調べ、平均値以下のものはより高い危険性を持つと考えられるので、次のような飼い方とする。すなわち、血漿のβハイドロオキシプチレイト値が、妊娠末期2~3週の群の栄養充足を判断するのに有効となる。群の10%のサンプルが得られるならば、βハイドロオキシプチレイトの平均値が、4.8mg/100mlより高いときは飼料の増給をする。もし母羊が妊娠末期3週間にすべての必要栄養量を満たしているならば、少なくとも単子で4kg、双子で7.5kgに達している。
 もし母羊が交配時に過肥であるならば、妊娠の最初の2カ月間に制限給餌によって体重を20%、次第に減らし、その後3カ月飼料を増給する。妊娠末期に母羊が過肥の場合、毎日1.6km程の運動をさせる。濃厚飼料はエネルギー摂取のみとする。厳しい気象状況においては、シェルターや補助飼料を用意する。寄生虫や感染症の様な併発的に起こる疾病は、治療をしておく。
 放牧地や放牧区画によって、草の最大成長時にうまく調整する。年を取って歯の整合が悪い母羊は、、繁殖羊群から分離し別飼いとする。




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